◆第五話「転機」〜後編〜より抜粋 
						 
						 先日と同じ部屋だった。セリフィアはラグナーをGに紹介してから、 
							「明日フィルシムを発ちます」 							
							「そうか。気をつけてな」 
							「はい、ありがとうございます。…剣は彼女に使ってもらうことにしました。紹介します。Gです」 
							 Gは黙って頭を下げた。実はここに来てから一言も発していなかった。セリフィアとラグナーが歓談しているのを見るにつけ、彼女自身にも説明のつかない、何とも了見の狭い感情が自分の中に満ちてきて、そんな感情を認めるのは自分でも嫌だったのでそれを消し去ろうと必死だった。ラグナーの声が聞こえた。 
							「うん、よろしく。その剣は縁起のいいものだ。君たちを守ってくれると思うよ」 
							 彼はGを見、セリフィアを見、セリフィアに言った。 
							「…君は彼女を信頼しているんだね」 
							「……? はい。Gは信頼できる仲間です」 
							 ラグナーはそれを聞いて「そうか、そうか」と笑顔を二人に向けた。Gは相変わらず仏頂面だったが、それも気にしていないようだった。 
							「よし。充分な答えはもらった。仲間を大事にするんだぞ? 知っていると思うが俺がサラと出会ったのも同じ仕事をしたのが最初の…」 
							「あ、あの…?」 
							「うん? ああ。気にしないでくれ」
						
						「待ってください。エドウィナ、どうして私たちを殺すんですか」 
								「決まってるじゃない。あんたたちが邪魔だからよ」 
								「邪魔な割に、フィルシムではやることが手ぬるかったじゃないか。手加減してたわけじゃないだろう?」 
								 嫌味たっぷりに言うカインに、エドウィナは憎悪の目を向けた。 
								「ええ、手加減してやったのよ。そうでなきゃお前たちなんか…」 
								「手加減だと!? お前のせいで借金まみれだ! 一万gp返せっ!!」 
								 セリフィアの罵言を無視してエドウィナは言った。 
								「どうして手加減したかわかる? 兄のために泣いてくれるひとが、何かしてくれるひとがいるかもと思ったからよ。それは間違いだったみたいだけど」 
								 エドウィナは言いながらちらりとラクリマを見た。さらに続けて、 
								「感謝してほしいわね。あそこを襲うのはやめたんだから。私の中のやさしさが邪魔をしたの。でも……やっぱり襲っておけばよかったかしら」<続く> 
						
						◆間奏「葛(つづら)折り」より抜粋 
							 
							 二人で歩きながら、少し肌寒い感じがして、ラクリマは(Gさんに寒い思いをさせちゃったな)と反省した。それでGに、 
								「…体が冷え切っちゃいましたね。帰る前に酒場をのぞいて、温かいものがもらえないか聞いてみましょうよ」 
								と、申し出た。 
								 Gはつと立ち止まり、ぺたっ、と、ラクリマの頬を触った。 
								「…本当だ、冷たくなってる」 
								 G自身はここへ来る前は高山に囲まれたガラナークに住んでいたので、あまり寒いという気がしていなかった。 
								
								「そうしよう、風邪でも引いたら大変だ」 
								
								 Gはにっこり笑って、ラクリマの手を引いて「森の女神」亭に向かった。<続く> 
						
						◆第六話「訣別」より抜粋 
							 
							 朝食の席で、皆はアルトが肩になにか妙な生き物を乗せているのに気がついた。オレンジイエローに光っており、小さな竜のように見える。 
								「どうしたんだ、これ?」 
								 セリフィアが尋ねると、アルトは「危ないですから触らないほうがいいですよ」と言った。 
								「あれ、マジックミサイル〔魔法の矢〕じゃないですか?」 
								 Gは訝しげに言った。みんな驚いて、 
								「マジックミサイル!?」 
								「そうだよな、アルト?」 
								「ええ、まあ……」 
								 カインはアルトに向き直って言った。 
								「お前、何でそんなことできるんだ? ……何者だ?」 
								「ボ、ボクはただのアルトですよ〜」 
								 カインは次にセリフィアの方を向いた。 
								「セリフィア、ラストン人っていうのは、こういうことができるものなのか?」 
								 「ラストン人として言うが…」セリフィアはそう前置きしてから断言した。「そんなことができる奴はいない。」 
								 一同は再びアルトに注目した。 
								「ああ、まあ、ちびももしかすると人間じゃないだけかも知れないじゃないか。みんな、そんなに気にしないことだよ」 
								 ヴァイオラは慰めともつかぬ言葉を口にした。アルトは情けない声を出した。 
								「人間ですよぉ」 
								「いやほら、知られざる種族ってこともあるし…」 
								「知られざる種族なんて言わないでくださいよ〜」 
								「大丈夫、フィルシムでは人間以外も一緒に暮らせるから」<続く> 
						
						
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