●資料
 ◆7巻目次
 ◆人物紹介
 ◆迷宮図

●本文抜粋
 ◆第14話より
 ◆第15話より
 ◆第16話より
 ◆第16話より

『小さな世界の物語 7巻』について、もうちょっとご紹介しましょう。ここではほんの少しだけ、部分的な立ち読みができます。左のメニューで見たいところを選んでください。
第十四話「鏡の迷宮〜前編」より抜粋

「済みません、治療の呪文は残ってますか?」
 僧侶だと思い当たった瞬間、その台詞がセリフィアの口から突いて出ていた。
「そうね」
 アナスターシャはちょっと考えるようにして答えた。
「私の名前を呼んでくれたら」
 セリフィアはあせった。汗を流し、記憶を総動員して、必死で思い出した。
「アナスターサ……アナスターシャさんだと思いますが」
 舌を噛みながら、彼はようよう答えた。
 アナスターシャは押し黙ったあと治癒呪文を唱えた。それから小声で、
「あなたって、自分の興味のないことにはとことん冷たいのね」
「気をつけます」
 気があるんだかないんだかわからない口調でセリフィアは答えた。
「別に気をつけろって言ってるわけじゃないわ。でも私、あなたのことは前から知ってたわ」
「剣のせいですか」
「剣のせいじゃないわ」
「そうですか。ありがとうございます」
 アナスターシャはまたちょっと黙った。ややあって、
「ところで私の名前は?」
「アナスターシャしゃん……」
 セリフィアはまたも舌を噛んだ。
「私の名前、そんなに呼びにくいかしら?」
 セリフィアはばつが悪そうに言った。
「何か別の呼び方じゃいけませんか」
「何でもいいわよ。あなたが決めて」
「今、どう呼ばれているんですか?」
「私はあなたに決めてほしいの」
「………」
 セリフィアは悩んだ。どう呼べば呼びやすいんだろう。いや、それより俺が舌を噛まずに呼べればいいんじゃないのか? そう思って、彼は「アナスターシャアナスターシャアナスターシャ……」と密かに連呼してみた。途中で何度もつっかえた。しかし、だからといっていい呼び名も思い浮かばないようだった。
「……アナスターシャさんでいいです」
<続く>

第十五話「鏡の迷宮〜後編」より抜粋

「ヴァーさん、どうしてティバート、来るの?」
 ヴァイオラもカインもぎょっとしたが、今さら遅かった。音声はオープンで、ティバートにも彼の仲間にもGの発言は筒抜けていた。
「どうして?」
 Gはまだ爆弾を落とすのに飽き足らないようだった。
「なんかやだ……」
 それだけ言って、泣き出した。<続く>

第十六話「審判の時」より抜粋

 たがいの距離が近づくにつれ、先方の姿もはっきりと見えてきた。どうやら冒険者の一団らしく、風体から見るに戦士が3人、盗賊、僧侶、魔術師が一人ずつ。かなりの経験を積んでいるようで、その装いはどれも使い込まれているのだが、彼ら自身は旅疲れしているのか俯き加減に歩いている。
(……!?)
 最初に違和感を感じたのはやはりヴァイオラだった。ふと見ればティバートも訝しげな表情が浮かべている。
 ──フィルシムから一日半程度の距離で、経験を積んだ冒険者が疲れを見せている…?
 違和感の原因に思いあった矢先、茫洋と歩みを進めていた彼らが立ち止まった。距離にして20メートル。
 僧侶たちははっとした。
「これは……亡者の気配!?」
 その瞬間に、一団の気配が変わった。思い思いの武器を抜き放ち、身構えたのだ。
(……しまった!)
 戦闘態勢を取ろうとした一行に火の球の呪文が襲い掛かった。<続く>

第十六話「審判の時」より抜粋

「……あいつらも生きていれば………」
 ラクリマはカインに視線を向けた。彼は布地のひとつを手に取り、寂しそうにそれを見つめていた。彼女は黙ってその手の上に自分の手を重ねた。小さなぬくもりが伝わった。
 暫しの間をおいて、カインは口を開いた。ラクリマに向かって、
「もっと兄貴風を吹かせようと思っていたのに、な」
 ラクリマは「あ、兄貴風って…カインさん、私より年下じゃないですか」と意外そうに言い返した。カインは笑って、
「その『さん』付けはそろそろやめないか?」
「え………」
 ラクリマは当惑した。今までは自分が──ジェラルディンと顔も声もそっくりだという自分が、ジェラルディンと同じ呼び方をすれば相手は傷つくのではないか、あるいは彼女のことを思い出して辛いのではないかと、それも気遣って呼び捨てにしないようにしていた。
「あの…………じゃあ、練習してみてもいいですか?」
 ラクリマはそう言って、相手の表情をよくよく観察しながら呼びかけた。
「カイン…?」<続く>


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