●資料
 ◆8巻目次
 ◆人物紹介

●本文抜粋
 ◆第17話より
 ◆第17話より
 ◆第18話より
 ◆第18話より

『小さな世界の物語 8巻』について、もうちょっとご紹介しましょう。ここではほんの少しだけ、部分的な立ち読みができます。左のメニューで見たいところを選んでください。
第十七話「夏の始まり」より抜粋

「…人間は好きか?」
 天空。鷹族の世界であるその中心に建つ神殿、中央の大聖堂に族長の威厳に満ちた声が響いた。辺り一面──床や天井、柱さえも雲で作られたように見えるその場所には、今、族長と白い髪の少女しかいない。
 彼女は族長に呼び出されたのだ。
 その場所は鷹族に神聖視されており、彼女のような幼童は通常立ち入ることができない場所だった。そのため、緊張の面もちで族長の前に立っていた彼女だったが、族長の唐突な質問に目を見開いた。
 「神の眼」をもってしても族長の真意は測りかねた。ただ彼から伝わってくる気持ちは真摯で、戯れの言葉とは思えない。もしや地上の人間を盗み見た件を咎められているのだろうかと窺い見ると、族長はふとその目に柔らかな光を宿して彼女に微笑みかけた。
「なに、恐れることはない。そなたが禁を破って熱心に『地上』を見ていることは、知っておる。そのことを今さら責めたてるつもりはない。学問として『人間』を学んできただけの者と実際『人間』をその目で見た者と…感じ方がどう違うのか、知りたいだけじゃ。率直な意見を述べてみよ」
 彼女は首を傾げて少し考え、ゆっくりと口を開いた。
 憎まれ口をきくことには慣れていても、自分の気持ちを他者に話すことはあまり得意ではない。そもそも彼女と対等に話してくれる相手などいなかった。
「…人間は、馬鹿で愚鈍、貪欲な生き物だ。それは疑いようもない事実だと思うし、現在のまま放って置けば奴らが世界に害を招くのも時間の問題…いや、もう世界にとって人間は害でしかないのかも知れない。でも奴らは…女神にも世界そのものにも存在を許され…愛されている」
 彼女は懸命に言葉を選び、語った。
「…私は、人間に、奴らの貪欲さや粗野な素朴さに、そのエネルギーに惹かれる。奴らの魂が放つ光は、星のように綺麗ではないかも知れないけれども、奴らの点す灯りの彩のように…太陽のように、とても温かいものだから」
 少女の唇にうっすらと笑みのような表情が浮かんだ。
 赤い瞳はその場ではない何かを映してきらきらと輝いている。
「そうか、よく解った。では、…答えはわかっているようなものだが、あえて問う。『人間』は、ショートランドに必要だと思うか」
<続く>

第十七話「夏の始まり」より抜粋

「みなさん、いろいろとお世話になりました。ご心配をおかけしましたが、こうして元気になりました」そしてにこやかに提案した。
「私が自分で言うのも何ですが、今日は快気祝いをいたしましょう!!」
 バルジの一言に皆がおおと歓声を上げた。この黄泉がえりの魔術師は、快気祝いにかこつけて、渋るティバートを連れ出したのに違いない。おくてな二人を後押しするのにちょうど良い機会ではある。便乗するのに否やはなく、ヴァイオラは懐から金貨をひとつかみ取り出し、宿の主人に宴会の支度を頼んだ。
「ささ、バルジさんは真ん中にどうぞ。主賓ですからね」有無を言わさずヴァイオラが仕切る。「おっと、席が足らないな〜。じゃあ余った二人はそっちのテーブル席ね」
 皆は申し合わせたように長テーブルへ殺到した。出遅れたラクリマとティバートはポカンとしながら、あっという間に埋まったベンチ席を見下ろした。空いているのは奥まったところにある、こぢんまりとした二人掛けのテーブルだけだ。しかもその席には、いつの間に用意したのか、縁取りのあるクロスが掛けられ、真ん中にはしゃれた燭台を囲むように花まで飾られている。
 わずかな示唆でここまで客の意を汲むとは、とヴァイオラは独りごちた。一方、ティバートはそのあまりにもあからさまな演出に苦笑を禁じえなかった。<続く>

第十八話「夢の跡」より抜粋

 隣でラクリマがうなされているようだった。ヴァイオラは自分も半分眠ったまま体を起こし、彼女を揺り起こそうと手を伸ばした。
 そのとき、くぐもったような、しかし凄まじい音が轟いた。
 Gは、屋根裏部屋から半身を乗り出して叫んだ。
「村長の家で爆発!!」
 音は北の方角から聞こえてきた。それだけではなく、彼女はそれがもっと下のほうから、まるで地の底から響いたもののように思った。同時に、ほとんど全員がじっとりと体にまとわりつく何かの存在を感じ取った。
(魔力か……?)
 カインは身支度を整えながら思った。これはちょうど……あいつがセロ村で最初の満月のときに感じたような……そのときの感覚に似ていると思った。
「魔力が漏れてる!!」
 自分が知らずに叫んでしまったかと思ってカインはびっくりした。が、それはセリフィアの声だった。セリフィアは派手な音を立てて梯子を降りながら、さらに叫んだ。
「アルトは無事か!?」
 ヴァイオラは咄嗟にアルトを見た。<続く>

第十八話「夢の跡」より抜粋

 一気に走り抜けて、「木こり」亭に着いた。セリフィアは扉を開く前に呼吸を整えた。
「いらっしゃいませ。お食事でしょうか?」
 奥から「木こり」亭の主人、アルバーンが声を掛けてきた。セリフィアは中に入り込み、
「Gが泊まりに来ていると思うんだけど、部屋を教えてもらえないかな」
と、馴れ馴れしく話しかけた。
 アルバーンは涼しい顔で答えて言った。
「お客様のプライバシーに関することなのでお教えできません」
「………ここで待っててもいいですか」
 構わないと許しを得たので、セリフィアは「じゃあ、お茶ください」と言って席についた。それから腕組みをして考えだした。どこからだれが見ても「考え事をしているな」とよくわかる姿勢だった。
 宿の主人は奥で湯を沸かすのに小魔法【キャントリップ】の助けを借りた。だが、セリフィアは自分の考え事に没頭していて、彼が同郷人であることに興味を抱かなかった。<続く>


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