□ その時彼らは12 〜 ある村の中で □

 

 館の書庫に今日もその男の姿があった。ここ数ヶ月毎日通い詰め、そこにある一般的な書籍や研究記録等の巻物、雑記やメモに使った羊皮紙から日記に至るまでほぼ全ての書物を読みあさった。中には意図的にと思われる廃棄、削除された何かがあったが、膨大な資料を解読していく内にどうやら失われた欠片は解読することが出来たようだった。

「何やら重要な文献が2、3点失われているようですが、それが無くても稼動に問題はないでしょう。さあ、これで準備は整いました。これの力が何処まで通用するのか…宴を始めるとしましょう」

 その日から、館の中でその男の姿を見かけなくなった。

 

 

「あ〜ぁ、つまんないな。警備兵ったって、全然もてないじゃん。何か若い子は、みんな『アイツ』が、お手つきしちゃうしなぁ。やっぱ『たいちょー』じゃ無いとダメなのかぁ。でも、正面からやっても負けるかも知れないしなぁ。いっそ、後ろからやって、川に流しちゃおうかな。誰も見てない時を狙えばやれるかなぁ」

 

 

「さて、どうしたものでしょうか。どうやら彼は、大きな『何か』を見付けてしまったようですしね。ここに留まっているのも、そろそろ潮時なのでしょうか。確かにここでの生活も悪くはないのですが、誠に残念ながら一箇所に留まっているのは、私の性分に合わないようです。あぁ、…コワシタイ…」

 

 

「俺って幸せだな、いい仲間に恵まれて。俺の村計画も順調そのものじゃないか。弟のヤツは言いなりだし、姉貴もあの煩い義兄が居なくなった途端に大人しくなっちまった様だし。後はこのままちょっと修行を積んで騎士にでもなって帰ってきたら誰も文句は言わないだろ。…その前に邪魔なあのアドバイザーを事故にでも見たててやっておくか」

 

 

(『第十八話 プロローグ』より ◆ 2003年10月初出)

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