『小さな世界の物語』 文庫製作会議室
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タイトル 17話冒頭確認
投稿日: 2006/10/23(Mon) 20:30
投稿者tula

表記など少々変えた部分。
ところで族長の一人称は本当に「わし」でいいんですか。
しかも「なのじゃ」言葉でいいのか本当に。
見た目美青年じゃなかったか?(年齢知らないけど)


「奴らは……私たちを含め馬鹿者揃いなのだと思う。女神の望みを知りながら、結局何かを成し遂げた奴らなどいないのだから。ただ、それはたとえば迷路にはまっているようなモノで…真っ直ぐな道ではないからだろう? 時間をかけて多くのモノが失われてしまったけれど、立ち止まりさえしなければ行きたい道を見つけることができるはず。諦めたらそこですべてが終わる……どの種族も……我々もな。それぞれが必死にあがいてもがくさまは崇高だと思う、だから私は獣人たちが…好きだ。」
 そのとき、彼女が心の中で愛しく感じた「獣人」に彼女自身は含まれていなかった。
 彼女は自分のことが…少なくとも「好き」ではない。
「では、獣人族もこの世界にとって必要だと、そう思っているのだな」
「当たり前だ」
「では、そなたはこのショートランドは好きか」
「大好きだ」
 それだけはすぐに答えられた。彼女はこの世界を理屈抜きで好きだと思っている。
「では、最後の問いじゃ。この世界のために『人間』か『獣人』どちらか一方を選ばなければならないとしたら、そなたならどちらを選ぶ」
 ……どちらを? 彼女はそうつぶやいて眉根を寄せた。
 彼女にとって、それは今までの問いの中で一番実感のわかないものだったからだ。人間も獣人も女神の子、それをどちらか選ぶなんて事が彼女の中ではあり得ないことだった。
 しかしそう問うからにはなにがしか意味があるのだろう。
 それでもどちらかと問うのならば、と、彼女は口を開いた。
「どちらも、だ。どうしても『選ばなければならない』のなら、要らないのは何よりも選者である『私』だな。それで両方とも選ばれぬことなく暮らせるなら」
「ふむふむ。そなたらしい返答じゃの。ではここで一つ、だれも知らない獣人族の現状について話そうかの」
 族長は、居住まいを糺して語り始めた。どうやら長い話になるようだと思い、彼女は肩の力を抜くようにした。
「そなたも知っての通り、我ら鷹族で幼人なのはすでにそなただけで…ここ十数年、子どもは一人も産まれてはおらぬ。これは何も我ら鷹族だけに限ったことではなく獣人族すべてに共通する現象じゃ。始まりは今から二十五年前、獣人族の四大聖宝、『聖杯【カップ】』、『剣【ソード】』、『杖【ワンド】』、『金貨【コイン】』が失われたことによる。時を同じくして『地』、『水』、『火』、『風』の四大精霊もこの世界を逐われてしまい、獣人族は『聖宝』という直接の力と、『精霊』という後ろ盾を同時になくした。これが、人間族が俗に言う『魔力の減退期』にあたる。
「獣人は、自分たちで思っている以上に『精霊』の影響を受けている。『精霊』力の減少は、魔力の減少につながる。そして魔力の減少は、すなわち我々獣人の生命力の減少につながるのじゃ。その後、我々獣人の出生率が減少したのはそなたも習った通り。元々出生率の低い獣人にとってさらなる出生率の減少は、一族の存亡に関わる。実際、種族単位ではないにしても滅んだ部族は少なくない。
「さて、人間族の発表ではその後、今から十二年前に『魔力の減退期』を脱したことになっておる。ほんの一時だけ、確かに脱した。じゃが、人間族……正確にはたった一人の男が、戻った魔力をすべて使ってしまった。それ以来、世界の魔力は枯渇しているのじゃ。その源たる四大精霊が世界にいないのじゃから、そうそう世界の魔力が回復する訳もない。結果、獣人族にはこの間、一人として子どもが産まれてはいない。どの種族にもじゃ。
「これが獣人族がそれぞれの力を失った背景じゃ。この十二年で、海豹族は女神の言葉を伝える『口』を失い、狐族は女神の言葉を聞く『耳』を失った。蝙蝠族は『商い』をする術を失い、猪族は『農耕』の術を失った。我ら鷹族も、女神の代行者たる真の『神の眼』を失おうとしている。そして来年。二十六年ぶりに四大精霊が戻られる。やっと魔力が回復し始めるのじゃ。それを待っていたかのように、女神から神託が下された。『世界に住まうものを決める審判の時が来た。成人の儀式をもって、その決定とする』と。
「今や獣人族は力を失いすぎた。そして人間族は、世界を汚しすぎた。今度こそ、生まれてくる魔力を正しき方向に使わねば、世界そのものが滅びかねない。我らの同胞には思うところがある者も多いじゃろう。しかし、我らは……いや、そなたは、女神の代行者として、公正で正しい判断をしなければならぬ。『審判』の時はすぐそこまで来ているのだ。


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